とこしえならぬわたしへ / 生きてまで

f:id:cold_sleep:20210921161349p:image

・わたしが歴史に名を残すことはない。
世界は変わらない。変えられない。
生きてまで。


それでもいい、と思えるのか。

 


・>
すごい、すごい、おめはんだちはすごい。おらどはすごい
生ぎで死んで生ぎで死んで生ぎで死んで生ぎで死んで生ぎで死んで生ぎで
気の遠ぐなるような長い時間を
つないでつないでつないでつないでつないでつないでつなぎにつないで
今、おらがいる
そうまでしてつながっただいじな命だ、奇跡のような命だ
おらはちゃんと生ぎだべか
(おらおらでひとりいぐも / 若竹千佐子)

 


・おとうさんは映画が好き。
毎晩食卓にひとりで残り、映画を観ている。

いつもは観たことのある映画ばかり何十回も繰り返しているんだけど、今日は珍しく新しい映画を観ていた。

「おらおらでひとりいぐも」という作品。気になって、わたしも一緒に見ていた。

やさしくてきれいな仕立てだな、と思ったら、「南極料理人」の監督さん(沖田修一)なんだね。


主人公の桃子さんは若くして上京した人だ。けれど、75歳を迎えて、かつての故郷の言葉を思い出す。
自分を「おら」と呼んでいた日のことを。


わたしも、
いつかここではない場所で、わたしがわたしをわたしと呼んでいたこの日を、遠く思い出したりするのかしら。

 


デヴィ・スカルノ展を銀座へ観に行ったときのことを考えていた。
デヴィ夫人の80年はほんとうに激動そのものであった。小さな国、つまり自らが立つ店というものを作り上げたと思えば、戦争で国そのものを追われ。
長い年月を生きるというのはとてつもないことだ。
わたしなんてたった27年しか生きていないので、この先長けりゃ70年は続く人生のすべてを、想像することもできない。

いきなり火星にさらわれて何もかも全部を失うのかもだし、てかそもそも、次の瞬間死んじゃうのかもしれないし。


あとたった3日後の誕生日を、わたしが迎えられるのか。
わたし自身のことなのに、それすら定かにわからない。


生きるって死ガチャなんですね。
毎秒一瞬後に死んでなかったパターンの運命を引き続けているだけ。

 


・棺桶に入れたいものについて、昨晩考えてた。
けど、なんもないなあ。死んだあとには何も連れていけない。
あんなにすてきだったすべてへ遺品という悲しみが染みつくのは耐えがたいけど、古物を愛する以上、死のイメージがつきまとうのは宿命でもある。


古物を買い集めるというのは、自分の命がどうか永遠に続きますようにという祈りだ。
わたしがそうしてきたように、わたしがいつか遺すことになる人形の指の傷を誰かが見てそこにあった時間に思いを馳せてくれることがあるかもしれない。そういう類の。


わたしは永久薔薇創造主で、……こう選ぶしかなかった言葉の切迫を台無しにしてまでわかりやすい言い方をすれば、アーティストだ。

そしてわたしは少なくとも、歴史に名を残すために必要なパフォーマンスがどういうものであるのか、それくらい理解できる程度には、聡い。

だから、同じように、わかっている。


わたしが歴史に名を残すことはない。


・世界は変わらない。変えられない。
生きてまで。


それでもいい、と思えるのか。

 

 

f:id:cold_sleep:20210921161357j:image

・おばあちゃんの遺品を整理していた。
おかあさんが出してきた、段ボール箱いっぱいの、かわいいワンピース、コート、ブラウス。

全部おばあちゃんが作ってくれたんだって。


わたしのために。

 


・子供は絶対作りたいんだよね。わたしに贈りうものの中でもっともすばらしいものって、命だし。
それに、ジョジョの奇妙な冒険が「その血の運命」と歌うみたいに、わたしの血にしたがって、物語が次へ次へと引き継がれてゆくんじゃないか。そういうイメージを持っていて。


友達Hにそう語ったとき、Hはちょっと引き気味に、でも真剣に、こんなことを話してくれた。


「血の繋がりがなくても。
あなたが居たから変わった人生が、絶対にあるでしょう。
そのことを、もっと愛することはできないの?」


・夢に手を伸ばすことができました。あなたに憧れて。

お洋服のブランドを立ち上げたいんです。そして、"いつかわたしになりたい"。

歌詞を引用してそう声をかけてくれた、服飾学校の生徒さん。


私にはもったいないと思ってた。カワイイお洋服。着てみたらやっぱり楽しい。

似合わないって反対されるんじゃないかと覚悟してたけど、友達も褒めてくれて。

今日はここに来られて嬉しいです。

カワイイカルトで出会ったお客さんの言葉。


なんだかダイジェストみたいに書き連ねるのも躊躇われるし、

だって、受け取ったわたしが一番あなたのかがやきを知っている。
もっと、あまりにも個人的で、あまりにもキラキラした、命とのかかわり。


・わたしが歴史に名を残すことはない。
世界は変わらない。変えられない。
それでもいい、と思えるよ。